
相続手続きの中で作成される「遺産分割協議書」。その中に、金額を記載しないケースがあることをご存じですか?一見、金額を書かないと不備になるようにも思えますが、実は法的には問題ない場合もあります。ただし、状況によってはトラブルの元になったり、手続きが滞ったりすることもあるため、注意が必要です。本記事では、遺産分割協議書に金額を記載しないケースの可否や注意点、そして代替方法についてもわかりやすく解説します。
遺産分割協議書とは?
遺産分割協議書とは、相続人全員で遺産の分け方を合意した内容を文書にまとめたものです。遺言書がない場合や、遺言書に不明確な点がある場合に、相続人同士で話し合って遺産の分割方法を決める必要があります。その合意内容を形にしたものが協議書です。
遺産分割協議書の基本的な役割
遺産分割協議書は、主に以下の場面で必要になります。
- 預貯金の解約や名義変更を金融機関に申請するとき
- 不動産の相続登記を行うとき
- 相続税申告書の添付書類として提出するとき
つまり、協議内容を公的に証明する文書として非常に重要な役割を果たしています。
記載すべき一般的な内容とは?
通常の遺産分割協議書には、次のような情報が記載されます。
- 相続人全員の氏名と押印
- 分割の対象となる財産の詳細(例:〇〇銀行 普通預金〇〇支店 口座番号:1234567)
- どの財産を誰が取得するのか
この中で金額に関する記載は、特に預貯金や有価証券において求められることが多いです。
金額を記載しないケースはアリ?
結論から言えば、法律上、金額の記載は必須ではありません。しかし、実務上は記載が推奨されることもあります。
法的には金額記載は必須ではない
民法上、遺産分割協議書に記載すべき内容の形式は定められていません。よって、金額を明記していなくても、相続人全員の合意が取れていれば有効とされます。
たとえば、「長男Aは〇〇銀行の預金を取得する」と記載されていれば、厳密な金額を書かなくても合意書として成立します。
金額を省略するメリットとデメリット
メリット:
- 金額の変動に柔軟に対応できる(預金残高は変動するため)
- 記載ミスによる再作成のリスクを減らせる
デメリット:
- 金融機関や法務局で手続きが拒否される可能性がある
- 相続人間での誤解やトラブルの火種になりやすい
金額を書かない場合の注意点
金額を省略できるとはいえ、すべてのケースで問題がないわけではありません。
書かないとトラブルになるパターン
- 相続人の1人が「こんなに少なかったとは思わなかった」と不満を持つ
- 解釈の違いで「この財産は共有だったはず」と揉める
このようなトラブルを未然に防ぐためにも、金額の記載は有効な手段と言えます。
金額を記載しないと銀行や法務局で困る場合も
一部の金融機関では、遺産分割協議書に明確な金額が記載されていないと手続きを受け付けないところもあります。
また、不動産登記の際にも、協議書に不備があると法務局から補正を求められることがあります。
金額を書かないときの代替方法
金額を協議書に記載しない場合には、別の手段で補足することが重要です。
財産目録を別添する方法
遺産分割協議書とは別に、財産の詳細な一覧表(財産目録)を作成し、添付する方法があります。
財産目録には次のような情報を記載します:
- 預金の銀行名・支店名・口座番号
- 有価証券の種類と銘柄
- 不動産の所在地と登記情報
この財産目録に金額を明記することで、協議書自体には金額を書かなくても実質的な情報を伝えることができます。
口頭合意やメモの扱いは?
「口頭で合意してるから大丈夫」「メモ程度に書いた内容がある」では不十分です。
相続は法的手続きであり、書面での証明が求められます。後のトラブルを防ぐためにも、必ず書面で残すことが重要です。
ケースに応じた柔軟な判断を
遺産分割協議書に金額を記載しないことは、法的には問題ないケースが多いものの、実務や相続人間のトラブル防止の観点からは慎重な対応が求められます。
- 金融機関や法務局の対応を事前に確認する
- 財産目録の活用や、明確な記載で誤解を防ぐ
- 将来的なトラブルを想定して、できるだけ情報は明記する
それぞれのケースに応じて、金額を記載するかどうかを柔軟に判断することがポイントです。可能であれば、専門家(行政書士・司法書士・税理士など)に相談しながら進めると安心です。本村法務事務所では相続や遺言に関する無料相談を承っています。まずはお気軽にご相談ください。