相続の限定承認とは?相続放棄との比較と注意点

相続が発生した際、気になるのが「借金まで相続されるのか?」という問題です。実は、相続には「限定承認」や「相続放棄」といった選択肢があり、うまく活用することで不要な負債を回避することも可能です。

本記事では、長崎県で遺産相続や成年後見、許認可申請などを行う本村法務事務所が、限定承認の仕組みを中心に、相続放棄との違いや手続き方法、注意点についてわかりやすく解説します。

限定承認とは?

相続における「限定承認」とは、被相続人(亡くなった人)の財産をプラスの財産の範囲内でのみ相続する方法です。つまり、借金などのマイナスの財産があっても、相続した財産の範囲で責任を負えばよいという制度です。相続によって思わぬ借金を背負うリスクを抑えつつ、財産を適切に引き継ぐことが可能となるのが特徴です。

限定承認の基本的な仕組み

限定承認は、相続人全員の合意が必要で、家庭裁判所への申述が必須です。相続開始を知ってから3か月以内に手続きしなければなりません。個人で勝手に進められる手続きではなく、家族全体の合意形成が求められる点に注意が必要です。

たとえば、被相続人に500万円の借金と300万円の預金があった場合、限定承認をすれば、相続人は300万円の範囲で借金を返済し、それ以上の返済義務は負いません。これにより、プラスの財産で賄えない債務については免責される仕組みになっています。

この制度は、被相続人の財産状況が不明確な場合や、負債の有無があいまいな場合に有効です。特に、突然の死去などで財産調査に時間がかかるケースでは、限定承認によって余裕を持った対応が可能になります。

限定承認を選ぶメリット・デメリット

メリット

  • 借金の超過分を支払う必要がない:相続財産を超える債務については返済義務が発生しません。
  • プラスの財産が残れば、相続できる:負債を差し引いても残る財産がある場合は、それを引き継ぐことができます。
  • 家業や不動産を手放さずに済む場合もある:限定承認を活用することで、特定の資産を守る戦略も取れます。

デメリット

  • 相続人全員の合意が必要:一人でも反対する相続人がいれば手続きは進められません。
  • 手続きが煩雑:家庭裁判所への申述に加え、債権者への公告など多くのステップが必要です。
  • 不動産などに対して譲渡所得税が発生する可能性:財産の処分に伴い、思わぬ税負担が生じることもあります。

相続放棄との違い

ここでは、限定承認と混同されやすい「相続放棄」との違いについて整理します。両者は似て非なる制度であり、選択を誤ると不利益を被る可能性があります。

相続放棄とは?

相続放棄とは、一切の相続をしないという選択です。プラスの財産もマイナスの財産も引き継がず、最初から相続人でなかったものとみなされます。そのため、債権者からの請求を受けることもありません。

手続きは家庭裁判所で行い、相続開始を知ってから3か月以内に申述する必要があります。限定承認と異なり、単独でも可能で、他の相続人の同意は不要です。迅速かつ個別に判断・行動できるため、実務上は相続放棄を選択する人が多い傾向にあります。

限定承認との主な違い3つ

  1. 責任範囲:限定承認はプラス財産の範囲で負債を相続、放棄は一切相続しない。
  2. 手続きの難易度:限定承認は煩雑、放棄は比較的簡単。
  3. 相続人の同意:限定承認は全員の合意が必要、放棄は単独で可。

これらの違いから、選択肢を誤ると後悔につながることもあります。特に、限定承認で得られる可能性がある財産を相続放棄で手放してしまうこともあるため、慎重な判断が求められます。

どちらを選ぶべきか判断基準

以下のようなケースを参考に選ぶと良いでしょう:

  • プラスの財産が明確に負債を上回る → 単純承認(何もしない)
  • 借金が明らかに多い → 相続放棄
  • 財産状況が不明確・調査が必要 → 限定承認

また、財産調査に時間を要するケースや、土地・建物の処分を伴う場合などは、限定承認によって柔軟な対応が可能になります。一方で、明らかに債務超過の場合は、迷わず相続放棄を選ぶことがベターです。

限定承認の手続き方法

限定承認は通常の相続手続きよりも複雑です。以下に基本的な流れと必要書類、注意点を紹介します。正確な理解と準備が、スムーズな手続きの鍵となります。

手続きの流れと必要書類

  1. 相続人全員で協議し、合意を取る:一人でも反対すれば申述はできません。
  2. 家庭裁判所に申述(開始から3か月以内):期限厳守が原則です。
  3. 相続財産の目録を作成・提出:正確な財産把握が不可欠です。
  4. 債権者への公告・催告(官報掲載):相続財産に対する請求権を持つ者に通知します。
  5. 債権の弁済・残余財産の分配:財産を清算し、余りがあれば相続します。

必要書類例:

  • 被相続人の戸籍謄本、住民票除票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 限定承認申述書
  • 財産目録
  • 遺言書(ある場合)

特に財産目録は、後のトラブルを防ぐためにも正確かつ詳細に記載する必要があります。

手続き上の注意点とよくある失敗例

注意点

  • 手続き期限(3か月)を過ぎると単純承認とみなされる
  • 相続人全員の合意が必要
  • 手続きミスがあると無効になる可能性

よくある失敗例

  • 財産調査を怠って負債が過大だった
  • 相続人の一人が反対し、限定承認ができなかった
  • 不動産の譲渡所得税の申告漏れ
  • 官報公告を忘れ、手続きが不完全になった

こうしたリスクを避けるためにも、早い段階で専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。

まとめ|相続トラブルを防ぐために

限定承認と相続放棄は、相続トラブルを避けるための重要な選択肢です。どちらもメリットとデメリットがあり、状況に応じて慎重に選ぶ必要があります。特に負債の有無が不透明な場合、限定承認を活用することで過度なリスクを避けることができます。

ただし、手続きは煩雑で専門的な知識も必要となるため、早めに専門家に相談することが重要です。自分たちだけで判断するのではなく、専門知識を持つ第三者の意見を取り入れることで、より安全な選択が可能になります。

本村法務事務所は不動産会社を併設していますので、相続手続きのサポートや戸籍の収集、不動産調査、遺産分割相談から不動産売却まで、お客様を幅広い知識でトータルサポートさせていただきます。
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※登記申請業務は、司法書士の独占業務であるため、司法書士へ委託します。

相続の問題は誰にでも起こり得るものです。正しい知識と冷静な判断で大切な人の財産を守り、トラブルのない円満な相続を実現しましょう。