不動産を相続人全員が相続放棄したらどうなる?手続きの流れも解説

相続放棄は複雑な手続きを伴い、特に不動産の扱いについては不安を抱える方も多いのではないでしょうか。相続放棄をしたら不動産はどうなるのか、手続きも難しそうだし、費用はどれくらいかかるのか。

今回は、長崎県で相続手続きやそれに伴う不動産売買(提携不動産会社での取り扱い)などを行う本村法務事務所が、相続放棄をした場合の不動産の扱いや手続きの流れについて分かりやすく解説します。

民法の条文を交えながら解説するので、みなさんの不安を解消し、相続放棄に関する理解を深めるお手伝いができれば幸いです。

相続放棄で不動産はどうなる?

相続放棄とは、相続人が相続財産の受け取りを拒否し、一切の財産を引き継がないことです。
相続放棄を行うと相続人としての地位を失い、相続財産に対する権利や義務を放棄することになります。

相続人のいない不動産は国のものになる

民法239条では、相続放棄をした不動産の扱いについて、以下のように定められています。

所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

民法第239条

この条文の通り、法定相続人全員が相続放棄した場合、相続財産である不動産は国が引き継ぐことになります。

相続財産清算人を立てる必要がある

ただし、不動産を国庫に帰属させるためには、手続きが必要です。
司法書士や弁護士などを「相続財産清算人」とするための申し立てを行い、相続人がいないことを法的に証明しなければなりません。

相続財産清算人はもともと「相続財産管理人」と呼ばれていましたが、2023年4月の民法改正時に名称が変わった際、権限と役割にも以下のような変化がありました。

  • 相続管理人:相続財産の管理のみを担当。
  • 相続清算人:相続財産の調査や管理、財産を現金化(換価)。また、被相続人の債権者に対して借金を返済したり、残った財産がある場合には特別縁故者に分配し、国に納める役割なども担う。

相続放棄後は「現に占有している場合」のみ管理義務がある

2023年4月の民法改正前までは、相続放棄をしても空き家など不動産の管理義務が発生していましたが、現在では以下のように管理義務の線引きが明確になりました。

第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

民法第940条

この改正によって「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限定されており、占有していない場合には管理の義務は発生しないことになります。
この「現に占有している場合」とは、不動産を所有していた故人(=被相続人)と同じ家に住んでいた相続人などがあてはまります。

相続放棄の手続きの流れ

相続放棄には、被相続人が亡くなったことを知った時、もしくは自分が相続人であることを知った時から3か月以内に手続きを行う必要があります。

3か月という期間は短く感じるかもしれませんが、相続関連にはさまざまな手続きが発生するケースも多いので、できるだけ早めに相続放棄の手続きを進めることをおすすめします。

1.相続財産調査をおこなう

相続財産がどのようなものがあるかを調査します。これには不動産や預貯金、負債などを含め、正確に把握することがポイントです。

2.相続放棄の手続きにかかる費用を準備する

戸籍謄本や住民票の取得費用以外に、申述書を提出する際の収入印紙代などがかかります。それぞれの費用は裁判所や自治体で異なりますが、一般的には以下のように3000円程度とそこまでかかりません。

  • 相続放棄の申述書:収入印紙 800円
  • 相続放棄する人(申述人)の戸籍謄本:450円
  • 被相続人の除籍謄本一式:750円
  • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票:300円

また、弁護士や司法書士などの専門家へ依頼する場合はその依頼料が追加でかかります。

3.相続放棄の手続きの必要書類を用意する

相続放棄に必要な書類を揃えます。一般的には、戸籍謄本や相続人の確認ができる書類などが必要です。

4.家庭裁判所に相続放棄を申し立てる

必要書類を揃えたら、必ず相続人本人が家庭裁判所に相続放棄の申し立てを行います。相続放棄の申し立てには期限があり、ここまでの流れを3ヶ月以内に行えば問題ありません。

5.家庭裁判所から照会書が届き、返送する

申し立て後、家庭裁判所から1~2週間程度で照会書が送付されることがあります。照会書は申し立て内容の確認や追加情報を求めるためのものなので、必要事項を記載して返送しましょう。

6.相続放棄が許可されたら相続放棄申述受理通知書が届く

相続放棄が認められると家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付され、相続放棄が正式に受理された証明となります。

相続の手続きでお困りの際は本村法務事務所へご相談ください。

今回は、相続放棄をした場合の不動産の扱いや手続きの流れについて解説しました。

相続放棄をすると、不動産を含む相続財産は全て放棄することになります。相続人全員が相続放棄した場合、不動産は国庫に帰属しますが、そのためには手続きが必要となります。また、相続放棄の手続きには3か月という期間があり、家庭裁判所に申述書などを提出する必要があります。

相続放棄については行政書士では対応できませんので、お困りの際は司法書士または弁護士へご相談ください。相続放棄ではなく、相続を行う場合の手続きについては、不動産業と行政書士のWライセンスの本村法務事務所へお気軽にお問い合わせください。